黄昏時がせまってくると、お腹に目覚まし時計がセットされているが如きムックリと起き上がり、まずは大あくび、ストレッチを始める。そして、ガードマンさながら店内を一周する。巡回が終わるや否や、この店のオーナーと思われる中高年カップルのマダムたちによる恒例ぎょうじ、接吻ぜめに。それに黙って従ったあとは、彼女たちの生活感みなぎる健康的な足にまとわりつきながら、猫なで声で夕食をねだる。大降りミート缶は、ボールにあけられたとたん瞬く間に、ペチャペチャガツガツと音を立てながら、その上品な口元から想像がつかないくらい勢い良く吸い込まれていく。その後はお決まりの毛繕い。最初は広げた手のひらを丁寧になめる。次に奇麗にした手のにく球の部分をうまく使い、顔をくるくるとマッサージするようになでまわす。(その手が耳の後ろまでかかると、よく雨が降ると言われている)。つづいてピンク色のざらざらした小さいけど長めの舌が、背中からお腹、だいじなところ、そして足の付け根からピンと延ばした足先の指までまんべんなく体中をはう。
おうまがとき(逢魔時)、ついに彼の出番がめぐってくる。入り口正面レジ前カウンターの横に置いてあるからだが少しはみ出るかごの中を陣取る。そこから店に入ってくるお客を、ほとけ様のような半眼と白ひげで品定めをするのだ。
通りでは、コートの襟を立て家路を急ぐ人たちが往来する。そのうち一人二人と晩酌の一本をもとめ、白い息をはきながらドアを押し開ける。買い物を済ませた客は、彼に声をかけ、頭とからだをなでまわし、おやすみのあいさつをして満足げに店をあとにする。猫をかぶるようにおとなしく愛嬌をふりまくのも彼の役目だ。
さて、この時間帯からは昼間と打って変わり、さすが人種のるつぼニューヨーク、魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした何かに取り付かれたようなストレンジャーがドアをこじあけるように入ってくることもしばしば。
ところで、人間も長い年月をつみかさねて行くうちに、建前というよろいかぶとで身体を覆い自分を防御するようになるが、いつのまにかその重みに押しつぶされそうになり、身動き出来なくなる。そういった時お酒は、つかの間でもよろいから解放された素の自分を取り戻してくれる神薬だ。ところが、ことわざにある「過ぎたるは及ばざるがごとし」のように反面、取りすぎると魔薬にかわる)。
酩酊して我ここに有らず状態になるとあらわれるバッカスの狂乱面も手伝い、たががはずれて日頃の憂さを晴らそうと、さらにお酒をもとめに来るストレンジな客を彼ブラウニーは見逃さない。彼の触覚でもある長いひげがケイレンを起こしたように小刻みにゆれだすのは、何か異様な気配を感じた時だ。すくっと立ち上がり、目の瞳孔がひらき、全身の毛は山あらしのように荒々しく、尻尾はやく3倍の太さに。福まねき猫から突然、魔ものに化け、人間には見えない敵を威嚇しはじめる。すると、それらの客はまるで借りてきた猫のようにおとなしくなり店を出て行く。それを見とどけた彼は得意げに定位置にもどる。
二人のマダムたちにとってブラウニーは、ねこまんじゅう釈迦?
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