ennui

ennui

2012年1月4日水曜日

ニューヨークの猫わたしを招く


  ここ数年間ニューヨークを訪れるたび必ず足が向かう所がある。14丁目ユニオンスクエアー北にあるペットショップだ。ペットショップといっても日本のように可愛らしい犬や猫が販売されている訳ではない。あとから分かったことだが、ニューヨークシティでは
生体展示販売禁止を条例化する動きが活発化しているのだ。

 築数十年はたっていると思われる立派な建物の1階のコーナーの二重扉(ニューヨークの冬は零下になることが常で、外気がそのまま店内に入ってこないような工夫がされている)を開けたところから物語は始まる。
 会計をするたびお客さんに「少し寄付してもらえませんか?」と呼びかけをしているレジを横目に通り過ぎる。体育館のように広く天井も高いその店内を流れにそって行くと通路両脇に、カラフルな犬用の小物からフードなどがクリスマスシーズンもあいまって賑やかに展示されている。目移りしながらさらに奥に進むと、私のお目当てが出てくる。
 入ってすぐ左側に 「Cat Adoptions」 と上の方に大きく書かれた下に、猫たちのケージが並ぶ。それはまるで三階建て約10棟横に並ぶ広めのアパートといった感じだ。身体の大きい老猫と思われるもの意外は大抵2〜3匹一緒に入居している。
 ここはいつ訪れても、東京のとあるペットショップに入った時の特有の悪臭が殆ど無い。ちょうどボランティアの20代前半くらいと思われる女性が、猫のケージを清掃していたのでいくつか質問をしてみた。
「全くと言って良いくらい臭いがしないけど?」
「わたしたちは猫がトイレを済ませたら、直ぐにそれを始末しているからよ」
「餌はどうしているの?」
「ショップの協力と、寄付金(入り口のテーブルの上に募金箱が置いてある)で賄っていて、ドライとウエットの両方を1日3回あげているわ」
「何人くらいのボランティアの人たちがいるの?」
「全部で何名くらいか分からないけどシフト制で、日に4人が交代で朝のオープンから夜のクローズまでいるわ。あなたも興味あるならそこのパンフレット持って行って!」
 そして彼女は、「ヘンリー」とタグに名前が記されているケージの中の猫を抱き上げ、ハグしたあと膝に乗せてブラッシングを始めた。ヘンリーは彼女のひざから落ちないように小さく爪を立て、気持ち良さそうにのどをゴロゴロさせる。私も思わずその毛並みに指がのびた(本当は猫に触れる時、手の消毒が必要)。 

 もう一人のボランティア30代半ばくらいの男性は(タグに名前:オリーブ&ペッパー メスとオスのペアー ブラウンタビー 性格はキュートでラブリー ブロンクスズーで救ってきた 年齢11ヶ月 2匹一緒に貰って下さいと記されている)ケージの扉を半開きにして、猫たちとねこじゃらしで遊び始めた。それはまるで飼い猫が主人と夢中になって戯れている感じで、悲壮感が無い。

 ケージのところに貼られているタグは猫たちの紹介文で、名前・性別・毛色そしてあとは様々なことが書かれている。それも仕方ないことで、猫たちのここに連れてこられた理由がそれぞれ異なるからだ。
 昨年訪れた時は、事情があり飼えなくなって連れてこられた老猫たちが目立った。中には「兄弟なので必ず一緒にもらってほしい」等。ところが、今年は捨て猫や公園などをうろついているところ保護されて来た猫の方が多いとのこと。性別は半々位。去勢手術は原則的に半年以上の年齢に達してからするものだが、ケースバイケースのようだ。毛色はBrown tabby(キジトラ)が7割位と圧倒的に多く、次がTuxedo(黒白)だ。本当にタキシードを着用しているようで、中にはちょびひげまで付けているものがいた(笑)。あとは白がベースで模様が入っているもの、グレイなど。まれに純血種やそのミックスもいるが、殆どは雑種。共通することは、日本の猫と比べると、身体が1,5倍は大きい。

  ケージが並ぶ左横の掲示板を眺めていると、突然ニャーニャー
(欧米ではミューミューと聞こえるらしい)と泣き叫ぶ声が聞こ
えてきた。人間に例えると、小学校低学年の子供がお母さんに何
かを要求している時の「ネーネーってば」だ。生後6ヶ月メスの
ソニアである。ボランティアが他のものにかまけていて自分の番
がなかなか回ってこないので、意を決して訴えていると思われた。
すると、ボランティアの女性が順番をかえてソニアを抱き上げた。
ここではあらゆる人間模様、ではなく猫模様がうかがえる。







 年齢は記されていないブラウンタビーのオス、ラッセル。大きなお尻を正面に向けて寝ている。身体は中年太りで毛並みに艶がないところから推定7〜8年か?「ラッセル!」と呼びかけると、「何だうるせーな」とでも言わんとばかり、のっそりと眼を半開にして顔をこちらに向けてくれた。



 
  右端の中段に入居していたのは少し気品が漂うホワイト&グレイのメス猫カルメン。12ヶ月。スイートで愛らしく、あなたのベストフレンドに!夜は一緒に寝ます。と記されている。「カルメン!」と声をかけると、ぎりぎりまですり寄ってきて、のどをならしながら大きな身体でお手をしたり頭をまわし始める。愛嬌いっぱいに振る舞うそのさまに、なんだか胸が痛くなった。こんな立派に成長したレディーにいったい何があったのか?少しの間メランコリーに落ち入ってしまった。

 

  おとなしく順番待ちをして、やっとボランティアに遊んでもらっているのは、シルバータビーのオス エルトン 年齢10ヶ月。片目が痛々しい。記されては無いが、おそらく栄養失調か事故により失明したのだろう。 




最後に、角の曲がったところの真ん中の居住者。「チューブ7ヶ月&チャップリン8ヶ月オス。ホワイト&タビー。コメディアンチームであなたを笑わせます。一緒にもらってね!」と記されている。一匹はケージの奥で熟睡中。チューブと思われる方がケージギリギリまで寄って来た。まだあどけなさの残る清らかな目がきらきら眩しい。白いひげも身体も全く汚れていなく、真っ白。形の良い鼻は水分を含んだ柔らかそうな薄ピンク色。首には真新しい、赤い鈴がぶら下がったクリスマスツリーの模様入りの赤いベルトがしてある。「ここどこなんだろう?」と、呟いているように私は感じた。もし、私がニューヨークに住んでいたら今日にでも引き取って家に連れて帰りたいと強い衝動に駆られながら、しばらく時間を忘れたたずんでいた。
帰り際、募金箱に多くも少なくもない金額のドルをそっと忍ばせる。レジで姉に頼まれていた買い物の清算をしていると、「少し寄付して頂けませんか?」と声がかかる。「すでにしました」といって店を後にする。外はすでに哀愁色。誰もがぬくもりを求めて家路を急いでいた。



0 件のコメント:

コメントを投稿